05.フラグビンビン物語

 一週間後、里中の死をまだ引きずった俺のクラスの雰囲気は、例えば面白いことがあっても盛り上がりに欠け、言葉の数も少なく、何かが抜け落ちた感じだった。まあそれの理由は担任の山田先生が露骨にショックな様子を生徒に見せているのにもある。
 上の空で、何か言っても無視しがち。生徒から励まされると誰でも分かるような作り笑い。それに遠慮するかのように、クラスの雰囲気は沈んで行った。正に負の連鎖。
 その空気は裏サイトのチャットにまで影響している。一週間前とは比べものにならない位書き込みが減った。でもログイン人数は減ってはいない。居ても会話はしないのだ。
 特に面白いこともない。里中が死んで、みんな悲しんで。ただそれだけだ。そう思うのは俺がドライなだけなのかどうかは分からない。
 夜十時か。久々に早寝をしてみようか。特にすることもないし。そう思った五分後には、俺はもう夢の中だった。

 次の日の朝、ニュースを見た俺は驚愕した。
『南陽北高校の学生、また殺害』
 しかも殺されたのはまた俺のクラスの生徒であったことはみんなを恐怖に陥れた。
「あーちゃんも殺されるなんて……」
 学校では、クラス内はお通夜のような感じで白い歯を見せている人は一人もいなかった。ちなみに殺されたのはあーちゃんと呼ばれていた北村 綾(きたむら あや)。女子グループで一番うるさかった奴だ。
「おい……羽村、お前がやったんだろ?」
 不良グループの大田がとしきに詰め寄った。
「えっ……」
 としきは動揺を隠せない様子でを眺めた。
「お前里中が殺された次の日もいなかったじゃねえか!」
 そう言うと大田はとしきの胸ぐらを掴みあげた。八つ当たりなのは目に見えていた。
「やっ、やってない……」
「羽村あ、観念しろよ。俺見たんだよ。お前が夜が殺されたとこの近くに居たのをさ」
 もう一人、不良グループの村尾がの後ろから顔を出した。
「マジかよ」
「マジマジ」
「そ、それは塾が――」
 弁解も聞き入れず、すぐにとしきの顔面がゆがんだ。そしてその勢いのまま床に倒れ込んだ。もうこれはただの八つ当たりだ。
「前から怪しいと思ってたんだよな〜」
 右拳を振り、にやけながらが大田言う。
「マジ恐いわ」
「キモイ」
「制裁だな」
「死ねよ羽村」
「死ね」
「死ね」
 クラスの生徒達も口々ににとしきを罵り始めた。自分の中の不安や恐怖をすべてぶつけているのだ。
「犯人は羽村、お前だ!な〜んてな!」
 そう言って更に腹に蹴りを入れた。鈍い音と低い唸り声が教室に響いた。
 もう我慢出来ない。俺はとしきを助けに行くことを決心した。
「〜〜っ!」
 だが一足早くとしきは言葉ならない叫び声をあげながら教室を飛び出していった。
「としきっ!」
 たまらず俺も教室を飛び出し羽村を追いかけた。
「何だあいつ……」
「ホモなんじゃね?」

「くそっ……!」
 一体どこに行ったんだ。としきを見失った俺は途方に暮れていた。早くどうにかとしきを見つけなければ……。何か嫌な予感がする。
「チャチャチャ〜♪」
 不意にポケットの携帯電話が鳴る。ディスプレイに映っていた名前はとしきだった。俺は直ぐに通話ボタンを押した。
「おいとしき!今どこにいるんだよ!」
 受話器の向こう側からは荒い息遣いと階段を登る音が聞こえる。
「ハァハァ……ユウ……俺、俺何もして、何もして無いんだよ」
「うん。分かってる!今何処にいるんだよ!」
 ここは下手に刺激しないで穏便に居場所を聞き出す方が得策と判断した。
「本当に、何もやってないんだ……」
「分かってる。だかわら落ち着け!」
 これはまずい。としきはもうパニック状態だ。何をしでかすか分からない。
「ギィイイ」
 受話器の奥から錆びたドアを開けるような音が聞こえた。としきの荒い息遣いもいつの間にか消えていた。
「信じて、くれるのか……?」
 どうやら少し落ち着いたようだ。これならなんとか居場所を聞き出せるかもしれない。
「ああ!だから今何処に居るんだ!」
「……ありがとう――ブツッ、ツーツー」
「あっ!クソっ!」
 俺は切れた電話を俺は握りしめた。どこだ、まだ学校から外には行っていないはずだ。良く考えるんだ……。階段を登る音。そして錆びたドアを開けるような音。ん、待てよ……。
『屋上の入り口のドアが建て付け悪いから』
 ……屋上……か?。
 もし屋上だとしたら、その場所はもうフラグがビンビンだ。やばい!急がなければ!俺は屋上へ駆け出した。