07.よろしくね

 私はここ一週間ずっと何もするわけでもなく屋上に来ていた。フェンス越しに空を眺める。予報では快晴のはずの空は何故か曇り空で、少し憂鬱な気分になった。
「はあ……」
 嘆息した。何もする気が起きない。いっそここから飛び降りてしまおうか。何て考えも浮かんだ。
「やっぱここに居たのか。委員長」
 突然の声に驚いて振り向くと、入口の前にテクノ君が立っていた。ここ一週間でドアの建て付けが直されたせいか、全く気づかなかった。そして、彼の両手には沢山のプリントがあった。
「あ、そのプリント。前の授業のだっけ?」
「ああ、うん」
「ごめん。私委員長なのにやらせちゃって」
 そう言って私はテクノ君の元へプリントを受け取りに行った。私が手を伸ばすと、テクノ君はそれを後ろに引いた。
「いや、これは俺が出しとく。それより、金子が心配してたぞ」
「ノリが?」
「うん――」

 ――十分前、教室。
 前の数学の授業プリントを集めたテクノは委員長を探していた。先生に「集めたら委員長に渡して提出しろ」と言われたからだ。
「委員長いねえし……」
 途方に暮れていると、目の前をノリが通った。こいつなら委員長の居場所を知っているかも知れない。そう考えたテクノはノリに居場所を聞いてみることにした。
「おい、金子〜」
 そう呼ぶと、ノリはくるっとこっちを向いた。
「おはよーてっくん!」
「てっくん止めい。あともう昼休みだぞ」
 テクノは、高校一年生の頃から同じクラスだったノリの醸し出す独特の空気があまり得意でなかった。一時期は露骨に嫌がったこともあった。でも、何故かなつかれている。 「うわ〜お。失敗したぜ」
「……まあいいや。それより委員長知らね?プリント渡さなくちゃいけないんだけど」
「あ〜。多分屋上だよ」
「屋上?」
「うん。最近ミミちゃん元気ないの。全然笑わないよ〜」
 そう言うとノリは泣きそうになった。 「お、落ち着け。やっぱ一週間前のアレのせいか?」
「うん……。ミミちゃんミノ君のこと好きだったしい。う〜……」
 その後すぐにノリはまた泣きそうになった。委員長の事よりまずノリをどうにかしないと面倒くさいことになりそうだ。
「……わ、分かった!じゃあ俺が委員長何とかするから。な?」
「ホントに?」
「ああ。だから泣くなよ?」
「うん!」

「――とまあこんなことがな」
「ノ、ノリいいいい……」
 恥ずかしさで顔が熱くなって行くのが分かった。本当にここから飛び出したい。ノリにサンノ君のことを相談するんじゃなかった。
「まあ委員長がサンノを好きなのは、ここに毎日居るのを見れば一目瞭然だな」
「うう……」
 反論できない。やっぱり周りにはそう思われているのだろうか。少し来るの止めようと思った。
「で、それだけ?」
「ぁぇっ?」
 脈絡の無い質問が私の思考を切断した。話が飲み込めず、少しどもった。
「いや、悪い。主語が無かったな。ここに来る理由だよ」
 眼鏡越しに見えるテクノ君の目には、私の心が映っているように見えた。そう、私は理由があってここに来ている。
「うん……。本当はね、サンノ君の気持ちを知りたいからなんだ」
「やっぱりあの事件は納得行かないのか?」
「うん。だってサンノ君は自殺するような人じゃないもん!いつも元気で優しいし私達を――」
「ストープッ!委員長がサンノのことが好きなのは良く分かったから!」
「あっ……」
 また顔が熱くなる。ニヤニヤするテクノ君を見て、さらに体温が上昇した。顔が赤くなっているのを見られるのが恥ずかしくて私は下を向いた。
「じゃあ、一緒に事件を調べようか」
「はひっ?」
 突然の提案に驚いて返事が裏返った。
「金子に約束しちゃったしさ。委員長も気が晴れるまでやればいいし。な?」
「えっ、え?」
「はっきりしないなあ。おい金子!そこに居るんだろ?出てこいよ」
 そうテクノ君が入口を見ながら言うと、ひょこっと見覚えのあるツインテールが出てきた。
「ノリ……」
「えへへ〜。ミミちゃん!一緒に調べるんだよ?嫌だ?」  にこにこしながらノリは私の返事を待っている。テクノ君はまた私を見ながらニヤニヤしていた。この二人には適わないな。そう思った。
「ねぇ〜?」
 急かさなくても、私の返事はもう分かり切ってるでしょ。ノリ。
「はいはい。もちろんやるわよ!二人ともよろしくね!」