サンノ君の家はハムラ君の家から五分位歩いた所にある、マンションの三階の四号室。
時間はもうすぐ六時になろうとしていた。
「誰か居ればいいけど」
そう言って私はインターホンを押した。
「はーい」
少し間を置いて、女性の声が室内から聞こえた。そして、ドアが開く。
「こんばんは」
「あー?……ユウの友達?」
出てきた髪の長い綺麗な人は、私達を舐めまわすように見つめるとそう言った。外見は二十歳位だ。
「初めまして。クラスメートだったテクノと言います。この二人も同じで、斉藤と金子です」
「「初めまして」」
「ご丁寧にどーも。私はユウの姉の美麗(ミレイ)。何?あんた達も拝みに来たの?」
「はい。大丈夫でしょうか?」
「良いわよ。あがって」
『あんた達』。その言葉から、どうやら誰かが先に来ていたことが分かった。多分ハムラ君の家に行った子と一緒だろう。ならば考えていることも同じだろうし、やはり協力してもらうのがベストだろう。そう思った。
「最近の子は律儀なんねー」
「あの、誰か先に?」
一応確認のために聞いてみる。
「あー来た来た。名前は覚えて無いけど。男の子」
やっぱりか……。
と、そうこう言ってるうちに仏壇の前に着いた。そこにはサンノ君の遺影ともう一人、女性の遺影があった。
「ねえ〜、隣の人は誰え?」
「あー。それはママの。私が十八歳の時に交通事故でさ。うん」
しばしの沈黙。空気を重くしたノリの天然さを恨んだ。それに耐えられなかった私は、とにかく何か間を紛らわせたくて、本当はこんな理由では不謹慎なのだけど、遺影にお線香をあげた。もちろん、サンノ君のお母さんの分も。
「あんた達も、ユウのこと聞きに来たんでしょ?」
麦茶をコップに注ぎ、それをみんなに配りながらミレイさんが言った。私達は軽くお礼をする。
「ええ、まあ」
と、テクノ君は曖昧に返した。行動を読まれていることをあまり良く思わなかったらしい。
「出来るだけなら答えてあげる」
「じゃあ早速質問ですが、ここ最近サンノ君の様子はどうでしたか?」
「前の子にも話したけど、パソコンばっかやってたわ。後はよく夜に外へ出かけてたかな」
そう淡々とした口調で、何も考える事無くミレイさんは答えた。
「他には?」
「他にねえ……」
ここで初めてミレイさんが答えるのに時間がかかった。前の子はそこまで深く聞き込まなかったようだ。
「あー、たまにパソコンしてるときぶつぶつ言ってたくらいかな」
「内容は分かりますか?」
私は更に横から質問する。
「そこまでは……。でもその時は声をかけても全然反応しなかったから気味悪かったわー」
「そうですか……」
「あたしが分かるのはこれくらい。役に立った?」
「ええ。ありがとうございます」
テクノ君はそう言うとコップに残っていた麦茶を一気に飲み干した。私も同じように飲み干す。
「じゃあそろそろ失礼します。ありがとうごさいました」
「あー。はい。こっちもありがとうね」
私達はもう一度お線香をあげると玄関に向かった。ドアを開けるともう外は真っ暗だった。
「この頃物騒だから気をつけてね」
そうミレイさんに見送られ、私達は帰路に着いた。
「……」
「今日はいろいろ情報が手に入れられてよかったよ」
テクノ君はそう言いながら手帳を見ていた。さっきまで全然気付かなかったけれど、テクノ君は質問の内容を全部メモしていたようだ。まったく私はなんのために来たのか分からない。
「携帯も借りれたしね。それにしても……、暗いわね」
この地域は夜は本当に静かで、薄暗く、とても危険に見えた。まあ、男の子も一緒ということで、私は幾分か安心していた。
「うん。真っ暗だねえ。怖い」
ノリはそう言うと私の服の右の袖を軽く掴んだ。
「大丈夫。後五分くらいで駅に着くから。ね、テクノ君」
二、三歩前を歩くテクノ君に私はそう声をかけた。テクノ君はこっちに顔だけ向けて「ああ」と頷くと前をむき直した。
が、一秒もしない間にまたに振り向くと同時に、私達の方へ駆け出した。
一言、「危ない!」と叫んで。
そして直ぐ、暗闇の静寂の中に、風を切る音と、鈍い音が響きわたった。