一閃する音。その後、血の臭い。
私は状況を飲み込めないまま、ただ、その音と臭いのする方を向いた。
そこには、同じく状況を飲み込めていないノリと、ノリに覆い被さるようにしているテクノ君がいた。テクノ君は腕から血を流している。
「……」
そしてもう一人。鉄パイプを持った人。暗くて性別すら良く分からない。
私は徐々に私達が今置かれている状況を理解出来てきた。
「あ、あ……」
恐怖が体を急速に蝕んでいく。やがて、その恐怖が体の許容量を超え、声となって溢れようとする。
「走れええええ!!!!!!」
テクノ君の怒号が静寂を切り裂き、私の恐怖を麻痺させる。
「……!」
それと同時に固まっていた、私達を襲った人も鉄パイプを振り上げた。
「クッ!」
テクノ君は体をその人に投げ出した。私達を襲った人はその衝撃で後ろに倒れ込んだ。
「今だ!早く!」
その声ではっとした私は、固まってしまったノリの腕を掴むと思いっきり引っ張って走り出した。テクノ君も少し遅れて後ろから走ってきた。
が、テクノ君の背後から手が伸びる。それと同時にアスファルトに叩きつけられた。
「イャアアアアアア!!」
麻痺していた恐怖が爆発した。それと同時に足が止まる。体中から力が抜けていった。
テクノ君は倒れ込んで尚、必死にその人を止めようと、片手で足首を掴んだ。
「……」
ガスッ。
低い音とうなり声が暗闇に反響する。
「ひっ!うあああああ!」
それを見たノリが泣き叫ぶ。
私達を襲った人は鉄パイプをカラカラと引きずりながらこちらにゆっくり近づいてくる。
もうだめだ。私は目をつぶった。
「うらあああああっ!!!!」
急に後ろから大声が近づいてきたので、びっくりして目を開いた。そしてすぐ、私達の右側を風が駆け抜けた。
「ライジングパンチィっ!!」
鈍い音と共に、鉄パイプの人が吹っ飛ぶのが見えた。
「救世主(ヒーロー)参上!」
少し高いが、男の人の声。
「悲鳴が聞こえたから来てみれば……!。悪は許さん!!」
そして、その自称『ヒーロー』は鉄パイプの人に飛びかかった。が、それを止めるように鉄パイプが一閃する。
「うおっ」
それを紙一重でヒーローが避ける。その一瞬をついて、私達を襲った人は走り出した。
「待ちやがれ!」
ヒーローは追いかけようとするが、倒れ込んだテクノ君を見ると、走るの止めた。
「おい、平気か?」
ヒーローは倒れ込んだテクノ君をゆっくりと抱き起こした。
「うう……」
「お、よかった……。ってお前、テクノか!?じゃああそこの二人は……、金子と斉藤か?」
「えっ?」
ヒーローは私達を知っているようだ。暗くて顔が良く分からないので顔を確認したいが、腰が抜けて立ち上がれない。
「と、とりあえず救急車と警察呼ぶか。いいよな斉藤!」
「え、あ……。うん」
「やっぱ斉藤か」
そう言うと、ヒーローは携帯を取り出し、救急車と警察を呼んだ。
一息つくと、ヒーローは私達の方に近づいてきた。
「大丈夫か?」
そう言うと、ヒーローは私に手を差し伸べた。
「あ、ありがとう」
手を掴んで立ち上がると、私はそう言った。小さめだが、がっちりした手だ。
さっきまで気が動転していたせいか、周りが見えていなかったが徐々に見えるようになってきた。それにつれ、暗闇に目が慣れていった。そして、目の前の、私達を助けてくれたヒーローが誰なのかも認識できた。
「さ、桜庭君!?」
そう。私達を助けてくれたのは、いつも学校でダンベルを振り回している、言うなれば『救世主(ヒーロー)』とは遠い存在の『変人』。桜庭 大地(サクラバ ダイチ)君だ。多少びっくりしたが、助けてくれた彼には素直に感謝したいと思った。
「災難だったな。あいつは何だったんだ?」
「分からない……」
その分からないが、更に私を恐怖に陥れる。
「金子は平気か?」
「……ふええん」
緊張の糸がほぐれたのか、またノリは泣き出した。私は頭を撫でながらなだめた。桜庭君は、「泣かすつもりは……」と頭をかきながら言った。
ちなみにテクノ君は意識はあるものの、腕が折れているようなので、とりあえず救急車と警察を待つことになった。
「……おっ、警察来たみたいだな」
ゆっくりとパトカーのサイレンが遠くから近づいて来るのが分かった。