11.はじまりはじまり

 その後、警察署――
「はい。良く分かりました。じゃあ、保護者の方に連絡取るから、少し待っててくれる?」
 調書をまとめると、警官はそう言った。その調書に書かれていることは、もちろん先程私達を襲った事件のことだ。
 聞かれた内容は簡単に言うと、何故襲われたか、ということだった。まあ分からないから答えようも無いのだけれど。
 私が取調室から出ると、同じく先に取調を受けたノリと桜庭君がソファーに座っていた。ノリは桜庭君に野垂れかかるように寝ている。桜庭君はそれを気にしないように、ノリが野垂れかかっていない方の腕でダンベルを上げ下げしていた。
「お疲れさん」
 桜庭君は私と目を合わすこともなく、ただ黙々とダンベルを上げ下げしながら言った。
「うん……。後、さっきは……本、当に、有難う。そう、じゃなかっ……たら……」
 ノリが居る前なので気丈に振る舞っていたが、彼女が見ていないと分かると、緊張の糸が途切れたのか涙が溢れてきた。止めようとしても、更に涙を溢れさせるだけだった。
「な、泣くなよ」
「う゛……ん」
 私はノリの横に座ると自分を落ち着かせるためにゆっくり深呼吸をした。桜庭君は私が座るのを機にダンベルを使うのをやめた。
「……さっき警官が言ってたけど、テクノも腕を骨折しただけらしいし、よかったよ」
「……うん」
「明後日には退院できるらしいし、あいつにはいい休みになるよ。まあ斉藤も今日はゆっくり休め。な?」
「……うん」
 その後、私達は一言も交わさないまま、親の到着を待った。

 家に着いたのは十時過ぎだった。食事やお風呂など、一通り済ませた時にはもう十二時になろうとしていた。
 寝る準備をして自分の部屋に入ると、制服のポケットから携帯電話を取り出した。サンノ君のだ。おもむろにそれを開く。しかしオートロックがかかっていて中を見ることは出来なかった。
 私は諦めてそれを鍵のついている棚の中に仕舞うと、ベッドに横になった。
 思えば今日はいろいろ起こりすぎて、何だか何日も過ぎた感じがする。それ位衝撃的だった。
 そんなことを考えながら目をつむると、疲れていたせいかすぐに意識が薄れいった。

 同時刻、裏サイト二年四組チャット――
 あの事件以降、恐怖心もあったせいだろうか、ログインする奴はめっきり減った。ログインする奴と言ったら、俺、光神もとい野村 光(ノムラ ヒカル)ぐらいだ。
 誰もいないチャットに何故ログインするか……。理由は単純。ただの習慣だ。パソコンを開いたら、真っ先にこのチャットを立ち上げる。ここ数ヶ月やっていたことだから、やらないと何故か落ち着かないのだ。
 そんなチャットに今日、変化が起きた。それは時計の針が次の日を知らせようとしていた頃だ。

『運営:鬼さんがログインしました。』

 久しぶりに人が来たのは嬉しかった。が、名前を見た瞬間忘れかけていたあの事件を思い出した。
 冷静になれ。あの後、こいつはログインして来なかったじゃないか。きっと誰かの悪戯に違いない。ここにいるのが俺だけだから、からかいに来たに決まっている。

『光神:こん』

 まずは相手の動きを見よう。あわよくば逆にからかい返してやろう。なんて考えていた。

『鬼さん:第二幕スタートだ。』

 何の脈絡も無く、そいつはそう言った。

『光神:第二幕……?』
『鬼さん:前回は僕だけしか楽しくなかったからね。今度はみんなでゲームをしよう。楽しみにしててよ』
『運営:鬼さん様がログアウトしました。』

 第二幕、ゲーム。しかもみんなで……?
 俺は真っ先にゲームとは誰かが死ぬようなものではないかと考えた。第一幕は二人が殺されたあの事件のことだろう。つまり第二幕も人が殺される可能性は大いにあるからだ。
 みんなというのも引っ掛かる。おそらくクラスメート全員ということだろう。
 この事から俺が導き出した答えは『クラスメート全員で殺し合い』だった。
「……ありえねー」
 一人呟いた。
 俺はただ、この『鬼さん』が犯人でなく、全てが悪戯だと願うだけだ。
 だがその気持ちとは裏腹に、その時俺は、明日みんなに話す話題が一つ増えた位にしか考えていなかった。