15.あの日

ことを鮮明に覚えている今、
ここに全部書いてく。

塾の帰りだった。――


 今日は塾が早く終わったので、本屋に寄って帰ることにした。そこへ向かう時通る細い路地に入った時に、何かを叩き潰すような音が聞こえた。しかも連続して。
 俺は気になったので、その音のする方へ向かった。  細い道を真っ直ぐいくと、右に曲がれるようになっていた。そこを曲がった時だった。
 目に飛び込んできたのは体中真っ赤に染まった男と、目の前にある血だらけの肉塊だった。
「あ、あああああっ!?」
 俺は思わず声を出してしまった。
 その声を聞き、男がゆっくりとこちらを向いた。
「……やあとしき」
「……、ユ……ウ?」
 そいつは紛れもなくユウだった。だがユウは名前と呼んでも反応しなかった。
「何をいっているんだい?……僕は鬼さ。間違えないでくれよ」
「ユ、ユウこそ何言ってんだ!それに……お前それ、死んでる……のか?」
「ああ、としきを苦しめる奴はみんなこうなればいいんだ。としきは僕が守るんだ」
 明らかに様子がおかしい。あいつはいつも自分を『俺』と言うし、あんな丁寧な言葉使いをしない。
「里中も北村も、みんなとしきを裏切ったからね。ひどいよね。仲良くしてたのも、全てお芝居で、遊びと偽って呼び出して、みんなで袋にするなんてね。許せないよね」
「ユウ……。お前俺のために……?」
 俺がそう言うと、ユウは急に表情を変えた。
「だ、から……俺はっ、ユウじゃない……て言ってるだ……ろ。僕は、鬼……だよ」
「ど、どうしちゃったんだよ……」
「鬼、俺はユウ、鬼……。……あああああああああああああ」
 意味の分からない奇声をあげ、ユウはその場から走って行ってしまった。
「おい、何だ今の声」
 遠くから人の声がした。ここに居るのは不味い。そう思った俺は、急いでその場を離れた。
 大通りを、ただ無心で走り抜けた。
 家に帰ると、直ぐ部屋に籠もった。
 何故だろうか、自然と気分が高揚する。
「あは、あははははははははははは」
 笑いが止まらない。
 やった。あいつが、ユウがあいつらを殺してくれた。
 嬉しくてたまらなかった。でも何故だろうか。笑っているのに、涙が止まらないのは。
 何で俺は、こんなに涙が溢れるんだろうか。――


 屋上は、しんと静まり返りっていた。私達は思考と気持ちの整理をした。
「……サンノ君は……病気だったのかな……?」
「何とも言えないけど……、何らかの精神異常があったかもな……。ここに書いてあることが本当なら、サンノが鬼だったってことだな」
「やっぱりサンノ君が……鬼……」
「まあその二人がいない以上、何も分からないけどな」
「私……どうしたらいいか……わからないよ……」
 私の言葉に、テクノ君は何も答えなかった。そう、当たり前だ。私がどうすればいいかなんて、テクノ君に分かる訳がない。
 ただ、真実を知ってしまった今の私には、喪失感と絶望感が渦巻いていた。
「……っ……」
 私はその場にうずくまった。
 周りの何もかもが暗くなっていく。
「……泣いてるの?」
 不意に声が聞こえた。声からノリがトイレから帰ってきたのだと分かった。
 そう分かった瞬間、私は彼女に無様な姿を見せたくないという心が蘇った。
「……ううん……。泣いてないよ」
 今、ノリの存在が私の支えになっていたことがよく分かった。私は涙を拭くと、彼女に飛びっきりの笑顔を見せた。目の周りが腫れているのから、泣いていたのは絶対ばれただろう。でもそれをノリは何も言わなかった。
「テッ君、何か分かったの?」
「ああ。全部な」
「じゃあ、みんなに教えてあげよう!」
「そうだな」
 そう言うと二人は私の顔を見た。
「ミミちゃん」
「委員長」
 二人の手が私の目の前に差し出された。
「行こう!」
「行こうぜ」
 私はゆっくりとその手を握りしめた。
「……うん!」

 翌日、私達は分かったこと全て……いや、鬼の正体だけをみんなに告げた。
 怒りに声を荒げる子がいれば、驚きの余り言葉を無くす子もいた。
 何故、鬼のことしか話さなかったか。単純に身の危険を感じたがら。それもあるが、実は私が話さないように二人に申し出たのだ。
「委員長、何か変なこと……考えてねえよな?」
 テクノ君の問いに、私はただ「そんなことは考えてないよ」と言った。
 そう。言葉に偽りは無い。あんな酷いことをした人達に復讐する。それのどこがおかしな事なのだろうか。周りがもし私のやろうとしていることをおかしいと言っても、いくら非道だと言っても私はやるよ。クラスの問題を解決するのは委員長の役目だもん。


 例え私が鬼と呼ばれようとも。